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岡山地方裁判所 昭和42年(行ウ)3号 判決 1969年5月29日

原告 寒竹勘兵衛

被告 勝央町 外一名

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

「(1) 被告勝央町は原告に対し原告宅に設置した水道設備を修補して給水せよ。

(2) 被告らは各自原告に対し金一六九、五〇〇円及びこれに対する昭和四一年二月三日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。」

との判決ならびに(2)項について担保を条件とする仮執行の宣言。

二、被告ら

主文と同旨の判決。

第二、請求の原因

一、原告は被告岡山県勝田郡勝央町(以下被告町という。)の住民、被告光嶋虎夫(以下被告町長という。)は被告町の町長であるが、被告町は昭和三六年一月頃勝央町勝間田簡易水道事業(以下本件水道事業という。)の経営を計画し、その頃被告町長が町の公民館において同町勝間田地区住民に対し、「本件水道事業の水道施設新設工事費用中本管布設工事費用は借入金で賄い、加入者各自の負担する給水装置工事(以下本件給水装置工事という。)費用は最高六、〇〇〇円である。」旨言明し、本件水道事業経営の趣旨に賛成しできるだけ多数給水の申込をするよう勧誘したので、原告は被告町長の右言明を信用してその頃給水契約の申込をし、被告町の通知に従い、本件給水装置工事費用概算額六、〇〇〇円を同年九月一九日と同年一二月二〇日の二回に被告町に対して分割納入した。

二、本件水道事業の水道施設工事は昭和三七年三月頃完成し、原告は、同年九月から被告町より本件水道事業による給水を受けていたところ、その頃被告町は原告の負担すべき本件給水装置工事費用が既に納入した右六、〇〇〇円のほか、さらに一〇、七一六円(本件訴状中一〇、六七〇円との記載は誤記と認める)あるとして、原告に対しこれの納入を通知してきた。僅かの金額の相違ならばともかく、被告町長の前記言明に比して余りに多額な追加費用の負担となることに不審を抱いた原告は、右の納入に応ぜず、この件につき被告町の納得のゆく説明を求めていたところ、被告町は昭和三八年一月一七日突如として被告町職員を原告宅へ派遣し、原告宅に設置されていた量水器(メーター)を撤去せしめ、給水の停止)以下本件給水停止という。)を行なつた。

三、(一) 原告と被告町間の本件水道事業利用に関する契約(以下本件給水契約という)は、原告が被告町長の提示した六、〇〇〇円の本件給水装置工事費用を完納した際に成立しているものと解すべきであるから、被告町が量水器を設置して原告宅の給水装置工事を完成した時点において被告町より原告へ右量水器の引渡がなされ、原告はその所有権を取得したのである。

なお、勝央町勝間田簡易水道事業給水条例(以下本件給水条例という。)が被告町によつて公布施行されたのは、本件給水契約成立後の昭和三七年三月二〇日であり、右条例は原告に対し無効であることを主張するものであるが、仮にそうでなく本件給水条例中に量水器は被告町の所有とする旨の規定が設けられていたとしても、法規不遡及の原則より原告の既に取得した右量水器に対する所有権を奪い得ないのは当然である。

(二) 被告町は、本件給水装置工事に使用されたビニール・パイプ、給水栓、ストツプバルブ等各種材料に対して市販価格より著しく高い価格をつけ、これを原告を含む本件水道事業加入者に負担せしめているが、本件給水装置工事に要した費用は実際には遙かに低額であつた筈であり、被告町の申込者別費用負担額算定方法には何らかの不正を窺わせる幾多の疑念が存する。したがつて、原告の負担すべき本件給水装置工事費用額も原告が既に納入した六、〇〇〇円を下廻ることがあつても、これを上廻ることは到底あり得ない。

四、(一) 本件給水停止および量水器の撤去は被告町の公務員たる被告町長がその裁量権に基づき公権力の行使として一方的に行なつたものである。被告町長の右職務行為は前記三、によつて明らかな如く、原告の量水器に対する所有権を侵害し、さらに受益者ごとの分担金の額は給水装置工事の費用の受益者ごとに要した額とする旨定めた勝央町簡易水道工事分担金徴収条例四条に違反する故意もしくは過失のある違法なものであるのみならず、前記の如く本件給水装置工事費用に関する原告の釈明要求に対し納得のゆく説明を与えないまま、突如として本件給水停止および量水器撤去を強行したのであり、これは水道事業者が利用者に対し常時給水義務を負う旨定めた水道法一五条二項の精神よりみて権利の濫用ともいうべき不法行為である。したがつて、被告町は国家賠償法一条一項もしくは民法四四条一項、被告町長は民法七〇九条に基づき原告の被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

五、本件給水停止および量水器撤去により原告の被つた損害は次のとおりである。

(1)  家事上および業務上の損害 一〇九、五〇〇円

本件給水停止により原告宅では家事上および業務上少なからざる支障を来たし、有形無形の損害を一日平均一〇〇円の割合で被むるに至つたが、右は本件給水停止のなされた昭和三八年一月一七日から昭和四一年一月一五日までの一、〇九五日分の合計である。

(2)  汲水ポンプ購入費用     三〇、〇〇〇円

本件給水停止により原告宅では自家給水の必要上、地下水汲み上げのため汲水ポンプを購入せざるを得なかつた。

(3)  慰謝料           三〇、〇〇〇円

本件給水停止は近隣の住民に対し甚だ体裁の悪いものであり、原告は面目を失墜し多大の精神的苦痛を味わつた。

以上損害額合計          一六九、五〇〇円

六、本件給水停止にもかかわらず、原告と被告町間の本件給水契約は未だ存続していると解すべきであるから、被告町は原告に対し撤去された量水器を設置するなどの水道設備修補ならびに給水をなすべき義務がある。

七、よつて、原告は被告ら各自に対し一六九、五〇〇円および右金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和四一年二月三日から各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いならびに被告町に対し原告宅に設置した水道設備を修補して給水することを求める。

第三、被告らの答弁および主張

一、請求原因第一項の事実中、被告町長の勝間田地区住民に対する言明の内容を否認し、その余の事実は認める。被告町は同三六年一月各町民に対し加入者の負担金、負担金の納入方法、水道料金、水道施設の所有区分等の大要を記載した広報紙を配付する等して加入申込を誘引し、原告はこれに応じて同年二月一五日他の町民とともに申込におよんだものである。

二、請求原因第二項の事実は認める。

三、請求原因第三項の事実中、本件給水条例が昭和三七年三月二〇日公布施行されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

本件水道事業は昭和三六年八月一九日厚生大臣の認可を受け、本管布設工事は同年九月より、流末工事(本件給水装置工事を含む)は同年一二月よりそれぞれ着工し、いずれも昭和三七年三月完成し、同年六月より加入者に対する給水が開始された。そして、本管工事費用は国および岡山県からの補助により賄われたが、給水装置工事費用は当時の地方自治法二一七条に基づき同三六年九月一日公布施行された勝央町簡易水道工事分担金徴収条例および同三七年三月二〇日公布施行された本件給水条例により受益者たる加入者各自の負担と定められた。被告町は右に基づき、同三七年八月一五日原告の負担すべき本件給水装置工事費用を一六、七一六円と確定し、原告より予納を受けている六、〇〇〇円を控除した残額一〇、七一六円を同年八月三一日までに納入するよう通知したが原告において納入しないため、同年九月一〇日以来その納入を再三督促したが、これに応じなかつた。そこで、被告町は本件給水条例三九条に基づき、同三八年一月七日付文書により最終納期限を同月一五日として期限内に納入を見ないときは完納まで給水を停止する旨通告したが、これにも応じなかつたためやむをえず本件給水停止の措置をとつたものである。

なお、前記申込の誘引にあたり水道施設の所有区分は町の条例で定める旨表示されており、後日公布施行された本件給水条例一二条一号により量水器および量水器までの給水管は町の所有とする旨定められたものであり、また量水器の撤去に際しては原告の妻の承諾を得ているから原告主張の所有権侵害はありえない。

本件給水装置工事費用総額は、当初の見積りでは二六〇万円であつたが、実際に要した費用は三二〇万円となつた。これは、本件水道布設工事に従事した人夫賃が工事を行なつた頃改訂となり大巾に引き上げられたためである。

四、請求原因第四項の事実中、勝央町簡易水道工事分担金徴収条例が原告主張の如き規定を有していることは認めるが、その余の事実は否認する。本件給水停止は何ら違法でないから被告両名は原告主張の賠償責任を有しない。

五、請求原因第五項の事実は否認する。

六、請求原因第六項の原告主張は争う。

被告町には給水契約上の債務不履行はなく、分担金の完納を見れば何時でも給水をする。

第四、証拠関係<省略>

理由

第一、当事者間に争いのない事実

被告町は昭和三六年一月頃本件水道事業の経営を計画し、その水道施設布設工事を昭和三七年三月頃完成させたが、原告が被告町長の勧誘に応じ同三六年二月頃加入を申込み本件水道事業の利用者となり、同年九月より給水を受けていたこと、原告は利用者の負担となる本件給水装置工事費用概算額として二回に六、〇〇〇円を給水開始以前である同三六年一二月二〇日までに被告町へ納入したが、被告町は原告の負担すべき本件給水装置工事費用額は精算の結果一六、七一六円であるとして同三七年八月三一日以降残額一〇、七一六円の納入を数回督促したところ、原告がこれに応じないので昭和三八年一月一七日被告町職員が原告宅へ赴き、同宅に設置されていた量水器(メーター)を撤去し、同日以降給水を停止したことは各当事者間に争いがない。

第二、損害賠償請求について

一、本件水道事業利用の法律関係

(一)  水道事業は「清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする」(水道法一条)ものであるが、国民の保健衛生上影響するところが極めて大であるため、水道法は右の見地からの厳格な監督規制を行なうと共に、その公共性に鑑み、事業の成立や利用関係についても各種の規制を加えている。

たとえば、地方公共団体たる市町村は実質上優先的に水道事業の主体(水道事業者)となることができ(水道法六条二項)、また水道事業者は料金、給水装置工事費用の負担区分その他の供給条件に関する供給規定を一方的に定める権限を有しているが(同法一四条一項)、その反面水道事業利用者に対する利用提供の義務(同法一五条一項)、事業継続の義務(同法一五条二項)、平等的取扱いの義務(同法一四条四項四号)等の各種義務を負担している。そして、本件の如く水道事業者が地方公共団体である場合、その水道事業が一種の公共用営造物であることは疑問の余地がなく、これに前記水道法の各種規制を照らし合わせると、少なくとも公営水道事業利用の法的性質は典型的な私法上の当事者関係としては相当異質なものが含まれていることは否定できないが、さりとてこれを公の営造物利用としての公法関係と即断することも相当ではないと考えられる。

(二)  けだし、水道事業に限らず、公共水道、電気、ガス、交通、病院等の各種公営事業のように地方公共団体が住民に対し財貨又はサービスを提供するいわゆる給付行政においては、行政主体たる地方公共団体は社会、経済、文化の各方面にわたつて住民の生活の福祉を積極的に向上、増進することを目的とするのであつて、地方税の賦課徴収或は治安、消防、衛生、営業に関する各種警察的取締のように行政主体が優越的な意思の主体として住民に対し公権力を行使することを本質とするものではない。もつとも、公権力の行使を本質とするいわゆる一般行政も、結局は住民の福祉の増進に資することを目的としている点においては異なるところはないが、その効果はいわば不特定多数の住民に向けられており、これに対し給付行政のそれは特定の個人に分割して帰属するものであるから両者は内在的にも異質なものというべきである。

しかも、水道事業における一定量の水の供給とその料金の支払いとは相互に対価関係に立つものであり(水道法一四条四項一号はいわゆる原価主義を採用している。)、その点においては私法上の双務契約と性質を異にするものでなく、現に水道法は水道事業者と利用者との関係が対等な立場にあることを窺わせる「給水契約」なる文言を使用している(同法一五条一項)。

(三)  ところで、本件水道事業の水道施設布設工事が完成した昭和三七年三月当時の地方公営企業法(以下旧地方公営企業法という。)は、地方公共団体の経営する水道事業のうちで常時雇用される職員の数が五〇人に達しないものについては同法の適用がない旨定めていたが(二条一項)、簡易水道事業の成立が認められるのは給水人口が五、〇〇〇人以下の場合であり(水道法三条三項)、証人光嶋三郎の証言および弁論の全趣旨によれば当時被告町では本件水道事業のほか二地区で簡易水道事業を経営していたことが認められ、これに昭和四一年法律第一二〇号による旧地方公営企業法改正後の現行法二条一項一号が簡易水道事業を同法の適用より除外していることを合せ考えると、当時被告町の水道事業に従事していた職員数は五〇人を下廻つていたものと推認される。そうすると、本件水道事業は旧地方公営企業法の適用を受けない公営企業であるから、同法一七条(現行法一七条の二)に定める独立採算制を建前とすることも要求されず、したがつて同法上の収益(営利)性(同法三条)を義務づけられてはいないこととなる。しかし、地方公営企業法の適用を受け、したがつて独立採算制をとつている地方公営企業の場合も前記の如く国民生活の福祉の向上という公共目的に仕える点においては異なるところはなく、逆に地方公共団体の経営する簡易水道事業はその水道の新設に要する費用の一部について国庫補助を受けることができるが(水道法四四条)、右費用には当該水道事業の維持管理に必要な工事に要する費用は含まれないから(同法施行令六条二項)、当該水道事業が合理的、能率的運営により最少の費用で最大の効果をあげる必要性を事実上有する(同法一四条四項一号参照)点においては地方公営企業法の適用を受ける公営企業と同様であることに照らすと、本件水道事業が独立採算制の建前を法律上要求されていないことのみをもつて、その事業の利用関係が公法関係であると解することは相当でない。

(四)  また、本件水道事業成立当時の地方自治法二二五条四項が地方公共団体の収入金はすべて強制徴収の対象となる旨定めていたことも、同様に本件水道事業利用の法律関係が公法関係であることを根拠づけるものではない。けだし、同条項にいう収入とは公法上の収入をいうのであり、私法上の収入がこれに含まれないことは従来から一般に認められていたところであり、したがつて、まず本件水道事業利用の法律関係が決定されたうえで、本件給水装置工事費用が同条項の適用を受けるか否かが定まるのであつてその逆ではないからである(なお、証人光田英雄、同河本仁郎(第一回)、同野上嘉雄(第一回)の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証によれば、本件給水条例には強制徴収の規定は設けられていないことが認められる。)。

(五)  以上の検討によれば、本件水道事業利用の法律関係は基本的には私法上の当事者関係であつて、ただ水道事業の有する高度の公共性に鑑み法律は右私法上の当事者関係に対し前記のとおり各種の修正を加えていると解するのが相当である。

よつて、被告町の公務員たる町長の公権力の行使を前提として被告町に対し国家賠償法に基づく損害賠償を求める原告の請求は既にこの点において失当といわなければならない。

二、本件給水契約の成立時期および内容

原告は、被告町長が昭和三六年一月頃原告を含む勝間田地区住民に対して本件水道事業の水道施設布設工事費用中加入者各自が負担すべき本件給水装置工事費用は最高六、〇〇〇円である旨言明した点を捉え、これが本件給水契約の成立を目的とした被告町から各住民に対する申込であることを前提として、これに応じて原告が六、〇〇〇円納入した時点において本件給水契約は成立し、したがつて原告宅に量水器が設置され、その引渡を受けた原告は量水器の所有権を取得し、また何ら債務不履行はない旨主張する。

しかし、一般において、水道事業者は水道事業の利用関係に関する料金その他の供給条件を個々の利用者との合意により個別に決定することなく、「供給規定」として一般的、定型的に定めうることは前記のとおりであつて、これは水道事業が通常その利用関係を大量に発生せしめ、またその利用関係における利用者相互間の公平を保持するためと解される。そして、利用者は右供給規定により定められた利用関係に関する諸条件を承知のうえで一種の附合契約を締結するものと解すべきである。

これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第二号証、証人光田英雄の証言とこれにより真正に成立したと認められる乙第一号証、第八号証、証人野上嘉雄の証言(第一、二回)とこれにより真正に成立したと認められる乙第四号証の一ないし五、証人河本仁郎(第一回)、同竹久皎の各証言によると、被告町は本件水道事業の経営を達成するためには最低三〇〇戸の加入申込を必要とするとして、同三六年一月原告を含む勝間田市街地の各住民に対し、本件水道事業に関する事業計画の大要を記載した広報紙を配付し、あるいは説明会を開いて、なるべく多数の加入申込をするよう勧誘し各地区代表者にとりまとめを依頼したところ、同年二月一五日までに原告を含む町民から予定した加入申込があり、水道事業経営の見とおしがたつたので、被告町長は同年八月一九日厚生大臣の認可を得、工事開始前分担金の納入をうけるため、当時の地方自治法二一六条に基づき、同年八月二八日町議会に勝央町簡易水道工事分担金徴収条例を提案し議決を経てこれを同年九月一日公布施行し、加入申込をした全員から同年九月二〇日と同年一二月二〇日の二回に三、〇〇〇円ずつ計六、〇〇〇円の概算分担金を徴収し、同年九月頃から本管工事を、同年一二月頃から流末工事を各施行し同三七年三月その完成を見、同三七年三月一日水道法一四条に定める水道の供給規定として勝央町勝間田簡易水道事業給水条例(本件給水条例)を町議会に提案し、同月四日議決を経て同月二〇日公布施行したことが認められる。なお、前記乙第四号証の四(広報紙)には左記内容の記載がなされている。

(1)  加入者負担金

配水管(本管)の本工事は国庫補助、起債、町費で負担し、加入者は配水管から宅内引込に要する経費全部を負担する。そのうち、配水管から庭先までの引込工事費は負担の公平を図るため加入者全員の平等割とし、庭先からの宅内工事費は加入者の実費負担とし、この全部の必要見込経費が一戸あたり約八、〇〇〇円の予定である。

(2)  負担金納入方法

なるべく二回程度の分割納入とし、工事完成後精算して、返還又は追徴する。

(3)  水道料金

一般家庭の場合一カ月基本料金二五〇円、超過料一立方メートル毎に二五円位の見込みであるが、充分研究し低料金にしたい。

(4)  水道施設の所有区分

量水器までの施設は町有とし、量水器からの給水装置は個人所有とする予定であり、この所有区分は後日町の条例により決定される。

原告は本件給水条例は原告に対する関係で無効であると主張するけれども、無効理由について具体的主張が何もないからこれをとりあげるに由なく、前記認定事実によると右条例は所定の方式に従い公布され一般に周知させる手続がとられ、その施行により原告ら加入者と被告町との間の給水契約の内容が確定されたということができる。

したがつて、本件給水条例は一種の普通契約条款たる機能をも併有し、原告と被告町間における本件給水契約を規律すべき内容として当事者双方を拘束するといわなければならない。

なるほど、証人山下須恵治の証言、原告本人尋問の結果によれば、昭和三六年一月頃被告町長が町の公会堂において勝間田地区住民に対し加入者各自の負担となる給水装置の工事費用は各人当り約六、〇〇〇円であるが、加入者が増えればこれより安くなる旨説明を行なつたことが一応認められ、また、前記のとおり広報紙中には、加入者の宅内引込工事負担額は八、〇〇〇円の予定との記載がみられるが、これらはいずれも本件水道事業の設立もしくは利用関係に対する被告町側の青写真を示しているに過ぎず、法律的には申込の誘引であると解すべきである。しかも本件水道事業設立の経過によれば、原告は前記広報紙により被告町が示した大要を承知して申込におよんだことが推認されるところ、本件給水条例は先に示した右大要をほとんどそのままとりいれていることが認められるから、本件給水契約の内容が本件給水条例をもつて規律されるとの前記結論に影響を及ぼすものではない。

そこで本件給水条例の内容を検討してみると、前記乙第一号証によれば、本件給水条例は、給水装置の工事費用は加入者各自の負担とするが(一五条)、町が設計により算出した概算額を加入者が予納し(一七条一項)、工事完成後町が過不足を精算して還付又は追徴する(同条二項)旨、また給水装置完成後配水管から量水器までの給水管および量水器の所有権は町が保有し(一二条一項)、量水器は利用者が善良な管理者の注意をもつて保管々理する(二一条一項および二項)旨それぞれ規定していることが認められる。

三、原告の負担すべき本件給水装置工事費用額とその相当性

成立に争いのない甲第五号証、証人野上嘉雄の証言(第一回)によれば、本件給水装置工事費用中、原告の負担すべき額は合計一六、七一六円であることが認められ、このうち原告は既に六、〇〇〇円被告町に納入しているがなお一〇、七一六円未納となつていることは当事者間に争いがない。原告は本件給水装置工事には不正の疑いがあるとして、残額一〇、七一六円の相当性を争うのでこの点について判断する。

本件給水装置工事開始に先立ち、被告町長や被告町が加入者各自の負担額は六、〇〇〇円もしくは八、〇〇〇円程度である旨説明したことは前記のとおりであるが、前記乙第四号証の四、証人野上嘉雄、同河本仁郎の各証言(いずれも第一、二回)によれば、右の金額は給水栓二個を設置した場合を一応の基準としたものであつて、給水栓の数が三個以上の場合には実費加算となり、また配水管から各戸量水器までの工事費用は各加入者の家屋所在位置によつて距離に差があるので、公平を期するため右工事費用総額を総加入者数で除したプール計算を行ない、各加入者平等負担とするが、量水器より給水栓までの主として宅内引込費用は各戸の実情に応じて算出された結果、本件水道事業加入者総数四〇四名中、各加入者の本件給水装置工事費用負担額は最低五、八〇〇円から最高一七、〇〇〇円程度まで可成り個人差を生じたことが認められる。そして、前記甲第五号証、証人野上嘉雄、同河本仁郎の各証言(いずれも第一回)によれば、原告宅は広大であるうえ、以前から原告は同所で寒竹理化学研究所を経営し、家屋内に附属の工場を設けて常時化学実験等を行ない特許も相当数得ているが、右の特殊事情より原告宅では普通給水栓三個、自在給水栓一個合計四個の給水栓を設置したことが認められるから原告の負担すべき工事費用額が前記基準額を大巾に上廻つたとしても必ずしも不自然とはいえない。また、前記甲第五号証によれば、被告町から原告宛届けられた原告の工事費用負担額明細書中一三ミリパイプの単価は八〇円と記載されているが、一方成立に争いのない甲第一二号証によれば、被告町より本件給水装置工事を請負つた訴外河上商事株式会社の工事費内訳明細書中同パイプの単価は三〇円と記載されており、さらに原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証によれば、原告からの照会に応じて同パイプの見積価格を算定した訴外有限会社地久屋の見積書中には、同パイプの単価は二五円と記載されていることが明らかである。しかし、証人野上嘉雄、同河本仁郎の各証言(いずれも第一、二回)によれば、前記甲第五号証中の単価には材料費だけでなく工事費も含まれていること、水道施設に使用されるパイプ、給水栓等の材料はメーカーの相違によりその価格に可成りの開きがあり、被告町では材料として一流メーカーによる高級品を発注したことがそれぞれ認められるので、単に右各見積書中の数値が相互に喰い違つていることのみをもつて原告の本件給水装置工事費用額が不当であるとは即断しえない。さらに、証人野上嘉雄、同河本仁郎の各証言(いずれも第一回)によれば、被告町では当初本件給水装置工事費用総額を二八〇万円と見積りを立てていたが、現実に工事を施行した頃工事人夫の日当額が改訂となり約四割引き上げとなつたため実際に要した費用は三二〇万円となつた事実が認められ、右の事実に前記認定事実を合せ考えると、被告町の行なつた本件水道施設布設工事或は原告の本件給水工事費用額の算定に何らかの不正があつたと断ずる根拠はこれを見出すことができず、結局被告町により原告が負担すべき工事費用として示された前記一六、七一六円は相当であると認めるほかはない。

四、本件給水停止および量水器撤去の相当性

成立に争いのない乙第三号証の一、証人野上嘉雄の証言(第二回)によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第三号証の二、第五号証の四、証人野上嘉雄の証言(第一回)によると、被告町は前記本件給水条例一七条二項の規定に従い、工事完成後同年八月一四日各加入者別に本件給水装置工事費用負担額を算定し、かねて二回に徴収していた概算額六、〇〇〇円との差額につき納入期限を同年八月三一日と定めて加入者に精算追徴の通知を発したところ、原告他若干名がこれに応じないので引き続き同年九月一〇日、同年一〇月、同年一一月にそれぞれ負担額の納入を督促したが原告は依然としてこれに応じなかつたため、昭和三八年一月七日、最終納入期限を同月一五日と定め、もし右期限までに納入のない場合は給水停止の措置をとる旨の書面を原告宛郵送し、右書面はその頃原告宅に配達されたことが認められる。そして、同月一七日被告町職員が原告宅に赴き量水器を撤去し本件給水停止を行なつたことは前記のとおりである。

ところで、前記乙第一号証によれば、本件給水条例三九条は加入者がその負担すべき工事費用、料金、手数料を指定期限までに納入しない場合には完納するまで給水を停止できる旨定めていることが認められる。本件給水契約はいわゆる継続的供給契約に属するものであるから、原則として被告町は給水の先履行義務を負い、しかも原告の本件給水装置工事費用支払義務と被告の給水義務とは厳密な意味において同時履行の関係にあるともいえないが(成立に争いのない甲第三号証の一、二、三によれば、原告は給水開始後の水道料金は毎月滞りなく納入していることが認められる。)、公平の見地よりして、たとえ給水開始後の料金は支払つているとしても、給水の前提となる水道施設布設工事費用の支払いをしない利用者に対し、給水停止の履行拒絶権を認めることは十分合理性を有するといわなければならない。そして、証人野上嘉雄の証言(第一回)によれば、給水を停止するためには技術上止水栓を止めただけでは効果がなく、量水器を撤去しなければならないことが認められ、量水器の所有権が被告町にあることは前認定のとおりであるから、被告町が本件給水停止の手段として量水器を撤去したことは何ら原告の所有権を侵害したものではない。

また、原告本人尋問の結果によれば、本件給水停止後原告宅では約三〇、〇〇〇円を投じて汲水ポンプを購入し、地下水を汲み上げて使用しており、原告の理化学研究上一定の水質を有した水を確保できない点に不便を感じているものの、日常生活上さしたる支障を来たしている訳ではないことが認められ、さらに証人光嶋三郎の証言によれば量水器の撤去およびその再設置工事は比較的簡単にこれを行なうことができ、当時被告町は原告以外にも工事費用の納入に応じなかつた加入者二名があつたが内一名は支払いを約束したので量水器の撤去を中止し、他の一名についてその撤去を行なつたが、右両名とも翌日工事費用を納入したので直ちに撤去した量水器を再設置し、給水を再開したことが認められる。これらの事実によれば、本件給水停止および量水器の撤去が原告の受忍の程度をこえた損害を惹起するものとはいえず、さらに前記甲第五号証、証人野上嘉雄、同河本仁郎の各証言(いずれも第一回)によれば、本件給水停止に至るまでの間被告町職員が原告宅へ赴き本件給水装置工事費用が高くなつた理由を詳細に説明していることが認められるから、本件給水停止が殊更に原告に対する加害の意思、目的をもつてなされたともいえない。要するに、本件給水停止および量水器の撤去に違法な点はなくこれを目して権利の濫用にあたると認めることは困難である。

よつて、被告町および被告町長に対し不法行為に基づく損害の賠償を求める原告の請求もまた理由がないものといわなければならない。

第三、水道設備修補および給水請求について

前記の如く、本件給水条例三九条は工事費用を完納するまで一時的に給水を停止することを定めているに過ぎないから、本件給水停止にもかかわらず原告と被告町間の本件給水契約がなお存続していると解すべきことは原告主張のとおりである。しかし、被告町が原告の負担すべき本件給水装置工事費用未納に基づく給水拒絶権を有していることは前記判断のとおりであるから、右工事費用を未だ納入していない原告が被告町に対し水道設備を修補して給水を請求することはできないのは当然のことである。

よつて、原告の右請求も理由がない。

第四、結論

以上のとおり、原告の本訴請求はすべて理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫 金田智行 大沼容之)

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